大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

和歌山地方裁判所 昭和32年(ワ)386号 判決 1957年12月05日

原告 有限会社中一商店

右代表者代表取締役 中村一三

被告 前守光

主文

被告は、原告に対し、金一四一、四三七円、及び、これに対する昭和三二年六月一日から完済まで、年六分の金員を支払わねばならない。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、仮に執行することができる。

事実

原告は、主文第一、二項と同旨の判決を求め、その請求の原因として、「原告は家具用材の販売を業とする商人であるところ、昭和三二年四月二四日から同年五月二九日までの間に、被告に対し、代金は毎月末日持参払の約束で、代金合計金一四一、四三七円に相当するベニヤ板、家具用材を売渡したところ、被告は右代金を支払わないので、ここに、被告に対し、右代金、及び、これに対する同年六月一日から完済まで、商法所定年六分の遅延損害金の支払を求めるため、本訴に及んだ。」と述べ、被告の抗弁に対し、「原告が被告からその主張の約束手形一通を受領したことは認めるが、右は、本件代金の内金支払のために受領したもので、支払に代えて受領したものではない。而して、右手形が不渡りになつたので、原告は、本件代金債権の執行保全のために被告所有の動産につき仮差押をしたものであつて、本訴は右保全処分の本案訴訟として提起したものである。」と述べた。

被告は、本件口頭弁論期日に出頭しないが、その提出した答弁書によると、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として述べるところは、「原被告間に、原告主張の通り家具用材の取引がなされたことは認めるが、被告は代金の内金一一四、四九四円については、同三二年四月二四日、金額を右同額とした約束手形一通を振出して支払ずみであるところ、右手形が不渡りになつたので、原告は、右手形金請求の訴を提起することを前提として、その執行を保全するため、被告の動産に対して仮差押執行をしているのにかかわらず、更に本訴を提起したものであつて、本訴は二重訴訟として許されない。仮に本訴が二重訴訟の禁止に触れないとしても、前記代金内金については右の通り約束手形をもつて支払ずみであるから、本訴請求中右内金額の支払を求める部分は失当である。」というにある。

理由

一、先ず、本訴が二重訴訟であるという被告の抗弁について考えてみるに、被告の主張は、手形金請求の訴と、該手形振出の原因関係に基ずく債権の請求の訴とが二重訴訟になるということを前提としているものと考えられるところ、右両訴訟が、請求原因を異にするものであることは多言を要しないところであるから、両者の内後に提起された訴をもつて二重訴訟にあたる不適法な訴ということができないことはいうまでもない。のみならず、被告は、原告において保全訴訟の本案訴訟に予定した手形金請求の訴が既に提起されていることを主張せず、又右事実を認めるべきなんらの資料もないから、本訴が二重訴訟として許されないという被告の抗弁は採用できない。

二、原告が、その主張の通り、被告に対し家具用材を売渡したことは当事者間に争いがない。被告は、本件代金の内金一一四、四九四円については、既に約束手形一通をもつて支払ずみであると抗争し、原告が被告主張の手形を受領したことは当事者間に争いがないところ、右手形が代金内金の支払に代えて振出されたことについては、被告において、これを認めるに足るなんらの証拠も提出しないのみならず、右手形が不渡りになつていることは当事者間に争いがないから、右代金の内金債務も未だ弁済されていないといわねばならない。

三、そうすると、被告は、原告に対し、本件代金一四一、四三七円、及びこれに対する最後の弁済期の翌日である昭和三二年六月一日から完済まで、商法所定年六分(原告がその主張のような商人であることは、弁論の全趣旨によつて明かである。)の遅延損害金を支払う義務があるわけであるから、これが支払を求める原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 下出義明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例